哲学に興味があるなら「ソクラテスの弁明」を読んではいけない。

 

哲学に興味ある人って以外と多いですよね。(多いですよね?ね??)

 

でも実際に大学の哲学科生以外だと何を読んでいいかわからない、または読んでみたけどわからないという方も多いはず。

 

哲学と言えば「ソクラテス」という知識から、とりあえず「ソクラテスの弁明」を読んでみて「なるほど、わからん」(実はこの状態がすでに哲学なんだけど詳しくはまた別の機会にでも)となったことはありませんか?

 

「読みやすい哲学書ない?」と聞いたら勧められる本はだいたいこのソクラテスの弁明」だと思います。哲学科の生徒に聞いてみて勧められたりしたこともありませんか?

 

ただ、この「ソクラテスの弁明」から読むのって以外とハードル高いんですよ。確かに面白いことは面白いし、読みやすい。けれど、やはりソクラテスが裁判を受ける場面の言い回しは、なかなか難解だし、実際は哲学興味ある、くらいの状態で読むとその後が続きません。

 

それなのに、なぜ皆が勧めてしまうのか?

主な理由は下記3つ

1. 読みやすい文体で書かれている

2. 哲学史を哲学書で学ぶスタートしては、ある意味、第一章としての役割がある

3. 心に傷を負った哲学科の惰性

が主な理由かと思われいます。3が大きい?気のせいですよ。

 

まぁ、とりあえず第3の理由「心に傷を負った哲学科の惰性」から説明しますと(だから3が大きく見えるのは気のせいですって)。

 

そもそも哲学科の生徒は「哲学に興味がある」と言われるとすごく嬉しい。それこそ、わくわくしながら「どんな本読みました!?」って聞くんですよね。大学の1年生から2年生のときは。

そして以下の状態になります。

 

Aさん「哲学興味あるんですよー」

哲学科「本当ですか!どんなの読みました!?(わくわく)」

Aさん「ニーチェの...超訳とか」

哲学科「(死んだ魚の目)」

Aさん「ビジネス書に書かれてた言葉とか〜」

哲学科「(遠い目)」

Aさん「自己啓発で〜」

哲学科「(白目)」

Aさん「でも哲学ってなんの役に立つんですか?よくわからないですよね〜あはは」

哲学科「ワタシモワカラナインデスヨネーアハハ」

 

・・・。

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節子、それ、哲学ちゃう。

(画像はローマ時代の哲学者セネカ。私のご贔屓。) 

しかしここで哲学について語り始めるとみるみる相手が引くのがわかります。そういう体験を幾度もし、傷つき、心を閉ざす。そして哲学を語ることに疲れ「おすすめの哲学書あります?」という質問に「とりあえず、ソクラテスの弁明とか読みやすいんじゃないですかね」という無難なものを勧めて煙にまく、こういうことをしがちになります。

もちろん、「これいいよ」と勧めてくれる哲学科の人もいますよ!!これはあくまでそういう傾向があるかも、という程度です。

 

 1. 読みやすい文体で書かれているのは至極当然な進める理由ですね。

カントの「純粋理性批判」やデカルトの「方法序説」、ウィトゲンシュタインヘーゲル、など、3ページ読んでみてください。そっと、本を置くと思います。

 

問題は、2. 哲学史を学ぶスタートしては、ある意味、第一章としての役割があるということです。

そう、ここが見逃されがちなんですけど、そもそも哲学科生が大学で最初に学ぶ哲学って「思想史」つまり「哲学の歴史」なんですよ。

哲学史とは、世界史や日本史が「人間が世界で、日本で行ってきたことの歴史」に対して「人間が世界について考え続けてきたことの歴史」とイメージしてもらえればいいと思います。世界史や日本史と同じで個々の哲学者の考えや、哲学書は、繋がっている哲学の歴史の流れの中のひとつなんです。

哲学が難しく、わからないものと考えられがちなのは、個々の哲学者の奇抜な考え方だけが取り上げられるからです。体系的に学べば、それは歴史にしっかりと基づいています。ちゃんと流れがあって、一つ一つの哲学者の考えは、前時代の哲学の流れを受け継いでいます。

 

だから、いきなり哲学書を読んでも、それは日本史をまったく知らない人が「吾妻鏡」(鎌倉時代の歴史書。ググってみて今思い出したので私にもよくわからない書物です)を読んで日本史の面白さを理解しようとするようなもん。挫折しないわけがない。

ソクラテスの弁明も、ある意味哲学史を学ぶ過程の入り口としてはすごく無難なんですよ。ソクラテス以前以後と言われるくらいだから、区切りとしてもちょうどいいので。

 

ただし!

それはあくまで「哲学史」という流れの一部 だと認識して、学ぶ姿勢を持っている場合に限ります。ソクラテスを読んで、その後に書かれた哲学書をどんどん読んでいくなら全然あり。むしろ最適。(ただ、西洋哲学の始まりはソクラテスより前なのであくまで第1章であり、序章ではありません。)

 

人生に苦しみ悩み、ある時書店で手に取った哲学書がまさに自分の悩んでいることを語っていた。なんて幸運な人もいると思います。そう、核となる哲学書が見つかればそこから深めていける。日本史の中で織田信長が好きだとして、その時代や前後の歴史、後の世に与えた影響や、織田信長が誕生するまでの歴史の流れなどを調べることで全体の歴史へと目が映るようにそういう哲学にしょっぱなから出会え幸運な人もいます。

 

でも哲学科に入学する生徒でさえ、ほとんどが漠然と「考えることが好き」「よく悩む」という感じで入ることが多い。で、哲学史を学んでいくうちに自分の核となる哲学者、流行りの言葉で言うとメンターが見つかって深めていけるわけです。

 

というわけで、哲学に少しでも興味のある方はまず、哲学史から入ることをおすすめします。哲学史を学ぶことで、思想史の流れがつかめるから、哲学者の考えをある程度知ることもできます。その上で、興味を持てばところどころ関連する本や哲学者について深めていけばいいかと。

 

なのでいきなり難解な哲学書から入っちゃダメ!

でも、かといって「図解でわかる!哲学入門」や「萌える哲学書!」みたいなのだけ読むのものおすすめしません。入門としてはいいのですが、それだけを読んで哲学が好きというのは悲しい...その先を知ってほしい!哲学科はもう死んだ魚の目はしたくないんや!ただでさえ哲学勉強しているうちに悩み苦しみ死んだ魚の目によくなるのに...!!!

 

哲学史」といっても西洋、東洋、インドとあるけれど、西洋が割とメジャーで書籍も多くとっつきやすいと思われます。ラノベとかアニメ、漫画などにも使われているのは西洋哲学者たちなので親しみも湧きやすいかと。

 

おまけレベルですが、大学の学部生時代に哲学科の教授先生方から勧めていただいた哲学史と、私がお勧めする読みやすい哲学全体像の本を数冊紹介します。

あと哲学史ではないけれど、ソクラテスの弁明よりもオススメな、哲学に関係する本など。

 

※我が大学では東洋哲学史は扱いなかったので西洋哲学史に限定していること、哲学科時代、そこまで成績が良くなかった元学部生による紹介ということを念頭に置いてください。

 

【古代中世哲学について】 

著者:服部英次郎

タイトル:中世古代哲学史

入門オススメ度:★★★★

使用時:大学2回生の哲学演習より

西洋古代中世哲学史 (人文科学選書 5)

西洋古代中世哲学史 (人文科学選書 5)

 

 まず、哲学の最初の最初の祖、タレスから始まり、中世のエックハルトの一連の流れを哲学者個人の思想だけではなく学派や、その思想が生まれた背景、歴史なども細かく丁寧に解説してくれている名著。名著。(大事なことなので二回言いました)

ソクラテスが始まりじゃないんですよ、みなさん。ソクラテスの前に、2000年以上も前に、宇宙や世界の根源について真剣に考えてたロマンチックな哲学があるんですよ!!

紀元前から中世まで、主要な哲学者と思想と歴史がわかりやすく書かれています。でも読み応えはばっちり。ソクラテスの弁明読むよりもこちらを読んだ方が断然、「哲学」とよばれているものがどういったものかわかりやすいと思います。

 

 【全体について】

 著者:バートランド・ラッセル

タイトル:西洋哲学史1〜3

入門オススメ度:★

哲学史オススメ度:★★★★

使用時:大学2回生のときの英語演習で 

 高い。そして入門オススメ度は低い。しかも、本文は2段構成。でもこれ、面白いの。多分一生かけて読めるという意味ではこの値段は安い。バートランド・ラッセルはイギリスの哲学者とあって、ほのかな(かなりな?)皮肉、ジョークなどが練りこまれてあるのでにやりとすることも多々あり。そして、哲学史の知識の深さには、ただただ脱帽するばかり。一巻読むのも一苦労。でもこれ読めば本当にそこらへんの哲学科よりも断然知識が多くなると思われます。私も全部読めてない...お恥ずかしい限りです...少なくとも私よりははるかに哲学の知識つくと思われます、はい。

というわけで入門書としてはかなりハードル高いのですが西洋哲学史の本としてはかなりオススメ。

 

【主要な哲学を軽めに】

著者:ロバート・ロウランド・スミス

タイトル:ソクラテスと朝食を

入門オススメ度:★★★

使用時:4回生の際、個人的に購入

 表紙がおしゃれ。そして中身はソクラテスから近代哲学者までを一通り網羅しながら、朝起きてから寝るまで、生活に絡めて哲学の紹介をしてくれます。だから哲学者の名前と軽めの思想を学ぶには最適。読み物としても面白いので普通にオススメです。

 

以下は、哲学史ではないのですが、書物としても哲学の解説本としても優秀なのであげてみました。これは、体系的に学ぶつもりがなくても読み物として面白いのでオススメ。これで興味を持ってくれたら是非哲学史へどうぞ。

【おすすめ哲学関連】

悪について (岩波新書)

悪について (岩波新書)

 

 これは近代哲学、そして哲学史でも絶対に外せないカントの道徳哲学に関して書かれている新書。身近なことに例えられているので、すごくわかりやすいです。カント哲学について書かれていてわかり易いって本当に貴重だから!カントがどれくらいすごいかというと、ドラゴンボールで言えば悟空がサイヤ人4になったくらいかな?ハリポタで言えばヴォルデモート?とりあえず、哲学科にとってはラスボス並みというイメージでいて下さい。カントの道徳哲学では「善意志」というものが重視されます。例えば「電車でおばあさんに席を譲る」、って一見、善い行為ですよね?でもカントにかかれば、違う。「本当に譲りたくて譲ったのか?」と執拗に問い詰められます。周りの目を気にして譲ったり、そうすることで自分を良く見せようとして譲るくらいなら譲らない方がカントとして善なんです。「やならい善よりやる偽善」なんてカントにとってはまったく通用しない。この著者の中島さんもカントと同じようにひねくれまくってるので、読んでていて逆に気持ちいくらいです。 

 

カント入門 (ちくま新書)

カント入門 (ちくま新書)

 

 またカントですが、正直カントは本当に外せない哲学者なので。しかし恐ろしく難しいので、カントの著作は正直読むのはオススメできません。挑戦して下さるなら是非どうぞ・・・。でもその超超超難解なカント哲学の入り口をとても広くしてくれているのがこの本!!この本は本当にカント入門としてかなりかなりというか、一番優秀じゃないでしょうか。私の周りでもこの本はかなり評判が良かった。

この石川先生は残念ながらお亡くなりになられたのですが、私のゼミの教授が石川先生と面識があったらしく、たまに石川先生の話をしてくれました。主に悪口を。

でもそんな先生も本は認めていた様子。本当に、この本にはお世話になりました。

 

 

生の短さについて 他2篇 (岩波文庫)

生の短さについて 他2篇 (岩波文庫)

 

 はい、でた。これ。もう何十人に勧めたかわからない。岩波文庫だけど安心してください。

この表題の「生の短さについて」は60ページ弱ほどの文章しかありません。しかし本当に大事なことが描いてある。セネカよ!!!ありがとう!!

初めの方に長々と「人生を無駄に過ごしてきた老人に、あなたは散々人のために働いて無駄に人生を過ごして今何歳ですか?あと何年人生残ってると思ってるんですかと問い詰めたい」というかなり鬼畜な文章もあるのでそこは必見です。大西英文先生のラテン語訳はとても読みやすく、まるで詩のような美しい文体で流れるように読めます。ちなみにセネカはあの暴君ネロの家庭教師していました。

 

 

自省録 (岩波文庫)

自省録 (岩波文庫)

 

 上のセネカと同じ哲学学派のマルクス・アウレリウスの本。こちらは皇帝のメモみたいな感じで、一行とか3行とかが多いです。五賢帝の最後の一人、そしてプラトンが理想とした、皇帝であり哲学者である、ということを体現した唯一無二の存在。

こちらも岩波ですが、難しくありませんのでご安心を。

下手なビジネス書を買うより、ローマ皇帝のメモを読みましょう。

 

以上です。

うーん、かなり偏った紹介になってしまった。

中世がごっそり抜けているあたり自分の不勉強さを感じます。また本を読んでいこうと思います。

哲学って一生かけて学べる学問。大学でたら終わり、の学問ではありません。今の年齢関係なく、人間にとって人生の学問といえる存在。いつ学び始めてもいい学問でもある。ずーっと昔からこの世界について、必死に考えてきた人々の歴史を学ぶことで、世界の見方、考えかたの幅も確実に広がります。

 

わけのわからないものでもなく、きちんと歴史と流れがあって、学ぶための体系がある。だから、変なかじり方や、敬遠しないでね。

 

というわけで、少しでも興味がわいたら、まずは哲学史から入ってみてはどうでしょうか?

 

以上、提案でした。

 

終わり。