4月から哲学科へ入る君へ

君、そこの君。聞いたよ、哲学科へ入るんだってね?理由は?

なるほど、倫理が好き、宇宙の真理を知りたい、自分の中の疑問を突き詰めてみたい、研究者になりたい、そうか、ちゃんと理由があるんだね。素晴らしい。

え?無い?無くても哲学科は素晴らしいところだ。

何はともあれ、入学おめでとう。

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え?入る予定もない?でもとりあえず哲学に興味があれば構わないよ。

素晴らしいことだ。

 

君に一つ教えてあげよう。私が行っていた大学の哲学科は一学年80人くらいが毎年入学する。そして卒業するときは、70人くらいだった。いや70人は確実に切っていた。

ちなみに留年率は文系で上位だった。おそらくだが、一番...と聞いたことある。

まぁ、でも君が入学した大学は違うかもしれない。

ただ、君がもし私と同じように哲学科へ入ることを何かふわふわした大きな期待と共に入ろうとしているのであれば、老婆心ながら言わせてもらう。

 

ほとんどの場合、哲学科へ入学するということは、それすなわち

 「悩み、苦しみ、そして死ぬ(単位を落とす)」ということだ。

いや、本当。

哲学に何か大きな期待を寄せているなら、やめておきなさい。いや、期待は寄せてもいい。哲学は素晴らしい。一生モノの学問だし、人生の基礎として大変素晴らしいものだと思う。私も哲学科を卒業したことは、自分でもとても誇らしいことだ。

けれどね、間違っても君、期待を抱きすぎて「こんなはずじゃない!」と大学へ通うのを止めないようにしなさい。

分かったかい?

 

「そんなことするわけない」って?うん、まぁそうだろうね。誰でも最初は楽観的観測を持つ。それは悪いことではない。でもとりあえず、入学までどうせ暇をしているなら、ちょっと読んでいってくれるととても嬉しい。入学後、また困ったら戻ってきてくれたらそれでいい。

 

では、いくつかアドバイスがあるから聞いてくれ。

 

 

1.自分の哲学を決める前に、思想史をしっかり学べ

いいかい、哲学は個々の哲学者の考えが取り上げられているが、個々の哲学者達は古代からの密接な繋がりを持った一連の思想史だ。ドイツ観念論が好きでも、古代のプラトンアリストテレスを飛ばしては学べないよ。研究者になりたいのなら尚更だ。

「俺は私は、ニーチェが好きだからニーチェを学ぶ!」という君。

やめなさい。

とりあえず一度落ち着いて、哲学史を学んでから考えなさい。

苦しむよ。

哲学史は兎に角、おざなりにせず学んでおいてほしい。レポートや卒業論文を書くためだけでなく、君の好きな哲学者が見つかる可能性も広がる。哲学史を学ぶことで、対立した考えを持つ哲学者もわかり、飛び交う専門用語も大抵カバーできる。⚪︎⚪︎派、△△派、⚪︎⚪︎論、⚪︎⚪︎主義、と次々出てくるものも、哲学史をしっかり学び体系的に頭に入れると個々の哲学者の考えを深く学べることに繋がる。

おすすめの書籍はこれだ。

西洋古代中世哲学史 (人文科学選書 5)

西洋古代中世哲学史 (人文科学選書 5)

 

以前の記事を読んでくれたことがある人は「またこれか」となったかな?けれど、本当におすすめなんだ。 在学中もたくさんの教授に勧められた。ソクラテス以前から中世までを丁寧にわかりやすく、且つとても学術的に素晴らしい内容で学べる本だ。近世からはないが、いきなり網羅するのは大変だ。更に古代中世は哲学史として、とても重要な基礎となっているのでこの一冊は哲学生として持っていてほしい。

そしてボロボロに成るまで読み込んでほしい。

 

2.「それでも哲学は素晴らしい」精神を忘れるな

まずある程度哲学が好きで入ると、必ず悩み苦しみそして...となる。

兎に角迷う。「こんなことをしている自分はおかしいんじゃないか」「一体何の意味があるんだ」「哲学って何...」。

大丈夫、大抵皆、そうなるから、落ち込まずにこれを読んで欲しい。

哲学の教科書 (講談社学術文庫)

哲学の教科書 (講談社学術文庫)

 

 「あなたは私だったのか!」というくらい哲学生としては救われる。哲学とは何か、を読みながら、著者の姿や考えが自分自身の状態とも重なり、かなり共感、そして学べる内容だ。

ちなみに、かのアリストテレス大先生のこの本もおすすめだ。

アリストテレス「哲学のすすめ」 (講談社学術文庫)

アリストテレス「哲学のすすめ」 (講談社学術文庫)

 

 要約すると「哲学しないって生きてる意味なくない?」というような内容だ。(かなりざっくり要約した。そのまま鵜呑みにするのはいけないよ。何事も疑って自分で確かめてみなさい)

是非、自分の状態に苦しみ始めたら読んでみてほしい。原点に戻り、なおかつ励まされる。言うまでもないが、読むのに頭は使うのでビジネス系自己啓発本と思って読み始めないように。

 

3.基本の本はとりあえずわからなくても通して読むこと

ニコマコス倫理学〈上〉 (岩波文庫)

ニコマコス倫理学〈上〉 (岩波文庫)

 

 

ニコマコス倫理学〈下〉 (岩波文庫 青 604-2)

ニコマコス倫理学〈下〉 (岩波文庫 青 604-2)

 

 演習を持っていたときの教授に言われた言葉。

教授「君たち、ニコマコス倫理学は読んだよね?」

一同「......」

教授「読んでないの!?最低限、あれくらい読まないとダメだよ」

教授の求める最低限が、時には苦しすぎることも、早めに理解しておこう。

4.カント、ウィトゲンシュタインヘーゲルに迂闊に手を出すな

いいかい、カントはラスボスだよ。

もちろん、純粋理性批判を読もうとする心意気は素晴らしい。

けれど、入学初日から買う必要はない。君があまり哲学書を読みなれていないのであれば、哲学を嫌いになってしまう可能性がある。おやめなさい。

カントなら、まず入門から入るか、もしくはカントが雑誌に寄稿した一般人用に書かれた本を読みなさい。そうやって、少しずつカントの思想史での位置や有名な定義などを学んだ後、夏休みの課題で、じっくり読んでみたらいい。

カント入門 (ちくま新書)

カント入門 (ちくま新書)

 

 これはわかりやすい。何度もレポートの時に救われた。。。

永遠平和のために (岩波文庫)

永遠平和のために (岩波文庫)

 

 鬼のような純粋理性批判を書いた思想おばけのカントがとても良いことを言っている。道徳を養うためにも是非読んでみてほしい。

薄いので、更におすすめだ。

それでも少し難しいのが良いというならこれだ。

道徳形而上学原論 (岩波文庫)

道徳形而上学原論 (岩波文庫)

 

 

道徳形而上学の基礎づけ (光文社古典新訳文庫)

道徳形而上学の基礎づけ (光文社古典新訳文庫)

 

決して易しくはないが、基礎づけとあるように、実践理性批判純粋理性批判へと続く、0巻のようなものだ。私が持っているのは岩波文庫だが、イメージとして読みやすそうなのは光文社古典新訳の方なので、一緒に載せておく。イメージは大事なので表紙の感じが好きな方を選んだら良い。最初は細かい内容の訳し方、解釈の仕方なんか気にするな。

「我が上なる星空と我が内なる道徳律」に限りなき思いを寄せたカント(1724‐1804)が、善と悪、自由意志、自律、義務、人格と人間性など倫理学の根本問題を簡潔平易に論ずる。彼の倫理学上の主著『実践理性批判』への序論をなし、カント倫理学のみならず、またカント哲学全般にたいする最も手ごろな入門書ともなっている。

 上記はアマゾンの内容紹介だ。「最も手ごろな入門書」と書かれているが騙されてはいけないよ。「カント」と「哲学書」という属性がついているんだから。

 

さて、ウィトゲンシュタインヘーゲルも言わずもがな。

ただでさえ難解な哲学書が溢れる中で最も難解とさえ言われている。

戦うのはしばらくレベルを上げてからにしても遅くはない。

5.語学はしっかり!!

研究者になりたいのなら、語学は兎に角しっかり勉強してくれ。

なりたくなくても、語学は落とすな。

留年、卒業の危機に陥る一番の原因だ。

更に語学をしっかりやると特典がある。

それは哲学書の原書が読みやすい、ということだ。

翻訳される段階で、なぜかトランスフォーマーを遂げた哲学書は数知れない。 

 原書が読めるのであれば理解はある程度容易になる。

ちなみに私は読めない。だから君たちに哲学の未来を託した。

 

 

ここまで読んでくれてありがとう。

最後に、読みやすくて面白く、且つ哲学的議論を取り上げている本をいくつか紹介しよう。春休みに読書の筋力を鍛えておいて、最高の哲学科生活をスタートしてほしい。

人間とは何か (岩波文庫)

人間とは何か (岩波文庫)

 

 これは面白い。トム・ソーヤの冒険を書いたアメリカ文学の金字塔のマーク・トウェインによる作品だ。青年とおじいさんが人間とは何かをずっと議論している。

このじいさんが手強い。「君、それは⚪︎⚪︎だぜ」とやけにカッコイイ言い回しで全力で青年の主張に対抗してくる。まるでソクラテスのようだ。読んでいると青年と共に「人間とはなんだ?」と考え始めてしまう。読みながら、改めて人間とは何か?を考えてみるのも、哲学の体操になるのでおすすめだ。

悪について (岩波新書)

悪について (岩波新書)

 

 読みやすい上、カントの根源悪についてわかりやすく且つ興味深く書かれている。

これは哲学書としてより、楽しんで読んでもらいたい。正直、この悪についてを読んでから、物語への解釈の幅が広がった。

善と悪は、はっきりしたものではなく、善に悪が潜んでいることもある。社会に生きる人間として、この一冊は是非読んでおいてほしい。

 

怒りについて 他二篇 (岩波文庫)

怒りについて 他二篇 (岩波文庫)

 

分厚いが非常に読みやすい。兎に角「怒ることの愚かさ」がたくさんの例が挙げられて書かれている。セネカは古代のストア派における重要な人物なので覚えておくように。

エピキュロス派、ストア派、という言葉だけでも今日は覚えて帰りなさい。

 

他にも過去の記事で紹介している。

被っている本も多いが、よかったらこちらも読んでみて、気になる哲学書、入門書を探してみてくれ。

mariminor.hatenablog.com

 

さて、ここまで書いたが、おそらくかなり適当なレビューになっていたと思う。

何せ卒業して数年経過した上、私自身は劣等生だったからだ。

 

いいかい、哲学で大事なのは「疑う」ということだ。

くれぐれも私の書いたことを鵜呑みしないように。

え?言い訳?なるほど、そういう解釈もできないことはない。そしてきっと君は正しい。

 

まず読んで、疑い、自分の目で見て、考える。

 

君たちの哲学科ライフに幸あらんことを!