東宝ミュージカル『エリザベート』で、日本のミュージカル『エリザベート』が完成していた件
これがまた良かったんや...(しみじみ)
ミュージカルが苦手という方、
この作品は、この作品というか今年の「エリザベート」だけは観てほしい。
それでダメならもう何も言うまい。
ちなみに今年(2016)全国ツアーをやります。
これはミュージカルとしてお勧めするのでなく、一芸術作品、エンターテイメントとして楽しめる作品なんですよ!!特にこの2015(2016)年版は。
【作品のあらすじ】オーストリアの王朝ハプスブルク家(実在の王朝)に嫁いだ美少女エリザベートが、「死(トート)」というキャラクターに生涯をかけてストーカーされる恋される話です。死というのは本来は実体のない概念、この「概念を擬人化する」というのはヨーロッパ特有で、日本にはあまりない感じで興味深いです。
少女の頃、木から落ちて生死の境を彷徨い、黄泉の国へ行ってしまったエリザベート。そこで出会うのが黄泉の帝王トート(ドイツ語で死という意味)。彼は一目みた瞬間にエリザベートに恋をし、生きたエリザベートに自分を愛してほしい、と思ってしまうのです。死が人間に恋をする。
そこからずーっと生涯「好きだ好きだ」と追いかけられる。(実際はもう少しシリアス)
もともとはウィーンで上演されていた、ドイツ語のミュージカルです。
このエリザベートを日本へ持ってきたのが宝塚の、日本の、そして世界の小池修一郎先生。そう、日本初の上演はあの宝塚だったのです。
小池先生がドイツ語のミュージカルを日本語へ翻訳し、そして宝塚版へと作り上げたのが20年前。初演から大人気のミュージカルで、ベルバラと並んで宝塚を代表する作品の一つです。
私も色々なスターが演じる宝塚版を何度も観て(DVDですが)、東宝キャストの動画を観て、ウィーンのオリジナルのキャストのDVDも観て、そして昨年、帝国劇場でこのエリザベートを鑑賞しました。
そして確信しました。
「あぁ、ここに日本のエリザベートが完成した...!!」と。
それはこのビジュアルを観ていただければおわかりになるかと思います。
どうですか?
どことなく、漫画チックだと思いませんか?
まず、これがエリザベートの相手役、トートのビジュアル。
ダブルキャスト(日替わりで演者が変わる)です。左が城田優さん、ご存知の方も多いと思いますが、ミュージカルもなさっています。そして右が井上芳雄さん、俳優もされていますが、ミュージカル界の貴公子です。
そしてこちらが、主役、エリザベートのビジュアル。
左が花總まりさん。なんと20年前に初演でエリザベートを演じた元宝塚の娘役トップです。
通称「女帝・花總まり」。
いや、本当に。検索してみてください。「女帝」が候補で出てきますよ。
右は蘭乃はなさん。こちらも元宝塚の娘役トップです。
一昨年の2014年に退団されたばかり!
ここで、ドラマチックなのが、この蘭乃はなさん、なんと憧れの娘役は花總まりさん。
そしてずっと憧れの花總まりさんの代表作はこのエリザベート、宝塚時代も花總さんは2回、この役を演じました(通常ありえないことなんです。それも女帝の所以)。
蘭乃はなさん自体も、宝塚最後の役はエリザベート。
つまり、元祖エリザベート花總まりさんがエリザベートを演じ、彼女に憧れて宝塚の娘役トップになった蘭乃はなさんがダブルキャストでエリザベートを演じたのです。
ちなみに、花總さんの退団は2006年、そして蘭乃はなさんの入団も2006年です。
花總さんの最後の公演が、蘭乃はなさんの初舞台でした。
なんてドラマチック。。。
やってくれたな、キャスティングと思いました。
ファンとして、あの女帝花總まりのエリザベートが帰ってくる!!!!!とずっと待っていました。本当に、20年前に日本での初演エリザベートを演じた元祖エリザベートが、20年の節目に改めてエリザベートを演じる...。
美貌が衰えるどころか、花總まりさん、可憐度が増している。
去年のパンフレットより。
どう!?何歳だと思います!?
いいですか、20年前に宝塚のトップだったんですよ!?
とまぁ、興奮してしまいましが、このエリザベートのビジュアルがとてもコミック調であること。そしてミュージカルの解釈、日本版の演出はとても少女漫画的に上演されていたと思います。
そもそも、トートのビジュアルは元祖オリジナルのウィーン版と比べると全然違います。
ドイツ版はものすごく現代的。
どうですか?
宝塚の初演時に、本来はエリザベートが主役の物語を、トートが主役になるよう作品をアレンジしたのでビジュアルもこのようにファンタジーちっくになっています。
役も「死」ではなく「黄泉の帝王」です。
オーストリアの実在の王朝を題材にしたミュージカルということもあり、オリジナルのウィーン版はとても政治色が強いです。ナチスの台頭描写や、革命、王朝のゴシップに、政治思想とキャラクターたちのエゴイズム、王朝の皇后の物語、という感じ。
トートも、一人のキャラクターというよりも、強烈なキャラクターではあるのですが「概念」という域を完全には出られていないような不思議なキャラクターでした。
日本版、宝塚版では、エリザベートに振られるたびに悲しそうな顔をしたりする演出もあり、人間に恋をしてしまった黄泉の帝王の恋の苦悩が濃く出ています。当初からエリザベートとトートの恋物語という感じ(エリザベートの結婚相手、皇帝フランツも合わせての三角関係)。どこかウィーン版と比べると人間的な部分が多い気がしました。
初演の時は上演時間や宝塚の都合上、オリジナル版と比べると場面も大幅に削られていましたし、台詞や演出もかなり変わっていました。
徐々に上演内容もオリジナルに近づいていって、オリジナルにあった場面も増え、その間に数数のミュージカルスターや宝塚スターが上演をし、そして遂に昨年2015年、従来のキャストを一新しての再上演だったのです。
今までは、人気ミュージカルとあって、トートなどは大御所の方々が演じられていたのです(城田優さんは以前も演じていましたが)。
狂言回しとしての役割を持つ、エリザベートを暗殺するルキーニ役もなんと2000年から2012年までずっと高嶋政宏さんが演じていました。
今回はとにかくキャストが若い!
だからでしょうか、エリザベートに恋する黄泉の帝王像がとても色濃く出ていました。
城田さんはオラオラ系俺様トート。強引だし、力強いし青臭いというか、わりと自分勝手な若さが溢れたトート。
対して井上さんのトートは、クールな王子様系。冷たいし、感情は見えないんだけど、エリザベートへの歌声がとーっても優しくて、本当に愛しているんだと伝わってくるトート。
良く少女漫画で出てくるよ!!!!
俺様オラオラ系の王子様と、孤高のクール系の王子様ですね!
そして印象的だったのが物語の狂言回し、最後にエリザベートを暗殺するルキーニ役の山崎育三郎くん。
ルキーニに人間味を与えていたました。従来の、狂人でしかなかったルキーニ(それでもとてつもないキャラなんですが)にどこか過去の生い立ち、富裕層や上流階級への複雑な感情が見え隠れした感じ。まだそこが新鮮すぎて、いまいち役と同化しきれていない感じはありましたが、新しい解釈で、今回のエリザベートに合っていてとてもよかったです。
惜しむらくは尾上松也のルキーニをみていないこと。。。
(左が山崎育三郎さん、右が尾上松也さん)
歌舞伎という舞台からミュージカルへ来た彼のルキーニはとても評判がよかったです。
まさに狂人の迫力がでていたそうです。
花總まりさんは、もうね、これは観てほしい。
エリザベートおったわ。
最高や。以上。
蘭乃はなさんのは残念ながら観ておりません。。。
今回の舞台は正直、蘭乃さんにとっては、かなりの試練だと思います。2回宝塚でエリザベートを務めてきた女帝花總まりさんがダブルキャスト。そして、キャリアも実力も、倍ほど違うのです。やはり酷評される方もいました。
お金をもらう立場なのだから、甘くみてあげてほしいとはいいません。
ただ、今回で蘭乃さんがどう成長していくかは、期待していいと思います。本物の舞台人になるために、バッシングを受けること、悔しい思いをすることは、誰でも通る道なので。女帝、花總まりさんも、「歌が...」という声は以前は多く聞きました。
ただ、そこをご自分でレッスンを受けて、音域を広げるなどして、今回のエリザベート役です。身近でその大先輩の姿が観れるというのは、誰もが与えられる機会ではありません。
ただ、初めて見る方は、花總さんをおすすめします。
やっぱり、彼女あってのエリザベートだと思うので。
東宝のエリザベート、オリジナルの上演内容に近づいたことで、逆にオリジナル版とは全く違う、日本特有のアニメちっくな内容になったと私は思っています。少女漫画的といったほうがいいかもしれませんが。
でもそれは決して悪い意味ではなくて、日本だからこそ、日本のミュージカルだからこその特色で、ウィーンの焼き増しなんかでない、日本オリジナルのミュージカル『エリザベート』が完成した証だと思うんです。
ここまで来るのに20年。
それまでに、たくさんの宝塚スター、ミュージカルスターが魅力的に演じてきたからこそ、2015年夏のエリザベートが完成したはずです。
奇しくも宝塚で最初に上演された、というのもこのミュージカル『エリザベート』がこのような形になった理由でもあると思います。小池修一郎先生がトートを主役に書き直して、宝塚独特のトートとエリザベートの愛を濃く描く演出で上演したこと。
王朝、プリンセスという女の子の夢である立場にある主人公と、結婚相手の皇帝フランツ、そしてエリザベートに恋する黄泉の帝王。
この、優しい王子と、俺様王子、と私、という黄金の三角関係。。。
それでも、やはりオリジナル版というのはあくまでエリザベートが主役の一人の「女性」の物語。あまりというか、ほとんど少女漫画的な演出はありません。芸術作品、というか素晴らしい物語。
それと比べてしまうと、歌唱力が、迫力が〜とかいう方もおられるのは理解できます。日本版の演出がウィーンと比べると違っているのも仕方ないと思います。そこを残念がられる方がいるのも理解はできます。
ただ、私は昨年観たエリザベートで、日本版『エリザベート』としては最高の出来だったと思っています。
すべての主要キャストのビジュアル・キャラクター、そして演出、雰囲気、物語、これら全てからウィーンのエリザベートの影は少しも感じられませんでした。
でも、まさしくミュージカル『エリザベート』だったんです。
全てがぴったりとハマった、最高に完成度の高いミュージカルでした。
本当に、このエリザベートを生で観れたこと、そして今年また観られることが奇跡です。今、まさしく、ミュージカル『エリザベート』は頂点にあると思います。
ここから、またどう進化していくのかも楽しみですが、まずはこの、完成した『エリザベート』を是非観ていただきたいと思っています。
東京、名古屋、大阪、福岡と全国を回るので、皆さん是非是非!!
私も今年はお金の許す限り観に行く予定です!
エリザベート自体については語ることが多すぎるのでまた別途記事書きます。
本当にすごいミュージカルなんや。。。
圧巻。